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福岡高等裁判所 昭和58年(く)51号 決定

少年 K・N(昭四三・一二・四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、抗告人が差し出した抗告理由書及び抗告理由補充書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。

所論は、要するに、原決定の保護処分は重すぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査して検討するに、本件非行の内容は、大型スーパー店において、時価一、〇六〇円相当の繰小刀一本を万引きしたというもので、事案それ自体は軽微であるが、やくざの真似をしてみたくて窃取したというその動機は、少年の非行性を理解するについて、これを軽視することはできない。

そして、しつけ教育や社会的訓練が不足しているところから、家庭的にも社会的にも甘えた気持が強く、承認欲求が強い反面、思慮に乏しいため、わがままで身勝手な行動にはしる傾向が顕著である。すなわち、中学三年に在学中であるが、学業に興味がもてず、成績不良で怠学が著しく、その代償的に、校内不良グループの主導的立場にたつて学校の規則に従わず、教師の注意指導を無視して無軌道な行為を繰り返し、他の生徒に与える悪影響も無視できない状況にあり、加えて、これまで、家庭裁判所における処分歴はないものの、警察段階においては窃盗(万引)非行のほか、深夜徘徊、家出、喫煙、不良交友などで、繰り返し補導を受けており、これらの事情を総合すると、少年の非行の背景にある要保護性は大きなものがあり、早急に適切な保護措置を講ずる必要が認められる。

このような観点から、原裁判所は、少年を試験観察の枠組の中に置き、学校における基本的な生活規範を遵守事項と定め、これを守らせながら、在宅保護による監護教育の可能性を検討した。しかしながら、少年にその自覚がなく、調査官、学校教師及び保護者の指導に従うことを潔しとせず、外罰的で自ら反省するところがなく、相変らず気ままな反規範の行動を繰り返し、改善のきざしが見えなかつたばかりでなく、二回にわたりシンナーを吸入したり、あるいは家出中の少年達と空家に無断外泊するなどし、その都度補導されていることが認められる。

そして、所論は、少年鑑別所収容を体験することにより、少年の考え方に変化が出て来たので、在宅処遇による指導監護が可能であるという。たしかに、少年にいい意味での心境の変化が生じていることがうかがえるけれども、学校において不適応行動を生ぜしめる基盤は少年自身の中にあり、この点について、早急に改善をはかる有効適切な手段がないことを考慮すると、もはや学校における集団的教育の中で在宅処遇をしていくことは極めて困難と認められ、むしろこの際は、施設収容の枠組の中で、少年が到達している学力に応じた教科教育を主体としつつ、自己内省力を涵養し、社会性、自立性を育てる教育を施すのが相当と認められる。なお、原決定において、いわゆる短期処遇の勧告はなされていないが、記録によると、矯正教育効果如何にもよるが、一応、修学年限内にできるかぎりの教科教育を施したうえ、卒業前に出身中学校へ復帰させることが予定されているものと考えられる。

してみると、右と同趣旨のもとに、少年を初等少年院に送致した原決定は相当であり、その処遇が重すぎて不当であるとは認められない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条に則り本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 緒方誠哉 裁判官 前田一昭 仲家暢彦)

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